『そんなんじゃクチコミしないよ。ネットだけでブームは作れない 新ネットマーケティング読本』を読みました


そんなんじゃクチコミしないよ。

先日のエントリ、私にとっては昨年から頭の片隅にあった「ネタ」で、「○○は死んだ」「○○はダメ」の部分をいろいろ入れ替えて遊べるテンプレのつもりだったんですけど、河野武さん著『そんなんじゃクチコミしないよ。ネットだけでブームは作れない 新ネットマーケティング読本』(技術評論社)が発売になったタイミングだったらしく、ごく一部の方々に妙に受けてしまいました。別に揶揄したつもりじゃなかったんだけど、タイミングが……。無知というのはときとして恐ろしい事態を招きます。誰かを名指しで批判するためのエントリではなく、ちょっと意地悪な言葉遊び程度に受け取っていただければ幸いです。

ということで責任を感じまして、表題のとおり件の書を手に入れたわけです。ちなみに、鶴川駅前の啓文堂書店に1冊在庫がありました。コグレマサトさんといしたにまさきさんの共著『クチコミの技術』(日経BP社)も置いてましたよ。やるじゃん、啓文堂!

『そんなんじゃクチコミしないよ。』
『そんなんじゃクチコミしないよ。』 posted by (C)macforest

さて『そんなんじゃクチコミしないよ。』というメインタイトルと、冒頭の“どうやらぼくはぶっちゃけてしまう人間のようです”という一文に、否応なく期待が高まる本書ですが、ぶっちゃけてる感じはあまりしませんでした。このあたりは、著者の芸風であると認識してサラリと受け流すのが良いと思います。

この本の主旨は「ネットマーケティングについて声高に喧伝する一部の勢力に煽られるな、騙されるな。広告やマーケティングの原則を忘れるな」というものです。私はそう理解しました。

例えば、次のような行。

これからのマーケティングは、ネットもリアルも、4マス(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)もセールスプロモーション(販売促進)も、それぞれの特徴を活かして設計・構築しなければなりません。二つだけ組み合わせることもあるでしょうし、もっとたくさんのメディアを複合的に組み合わせることもあるでしょう。また、あえてネットだけにしたほうがいい場合もあるかもしれません。いずれにしても、消費者や生活者がさまざまなメディアを日常的に使い分けているのですから、企業側も、それに対応して柔軟にメディアを使いこなしましょうというのが主旨です。(P043)

以降、AIDMAやAISASの話に続きます。この手の主張は他のページでも出てきます。

メディアには得手不得手がありますから、ネットやテレビ、店頭やイベントも含めて、対象者が接触するすべてのメディアを組み合わせてメッセージを伝えていくべきです。まさにこれこそが、企業が取り組むべき新しいマーケティングの姿です。(P138)

要するにそういうことなんだと思います。『クチコミの技術』にも、ネットクチコミだけで世の中ハッピーになるとは書いてないし、ネットクチコミこそネット広告の真の主役だとは書いてなかったように。

世の中にはいろいろなメディアがあり、いろいろな人がいて、人の生活パターンや動線があり、いろいろなタッチポイントがあります。そういった「one of them」の一つ一つを理解して、適切に扱い、繋げていくことが求められているのです。この当然のことを、ちょっとした「煽り」で忘れてしまうくらいじゃユー、ヤバイよぉ?――ってことですね。煽られたり騙されたりしがちな方は、この本を手に取って、ときどき我に返るのがよろしいかと。

ただ、筆者は具体的な事例をあまり挙げていません。何か極端な事例を挙げて「ほら、こんなにすごい!」みたいなことを嫌っているのだと思いますが、多少極端な事例であっても何かヒントはあるはずですし、数を集めれば説得力が出ます。覆面座談会だけじゃなく、ぜひ具体例も出してほしかったです。「弊社はバズマーケティングの失敗例を糧に、こんなことをしています」みたいな例、あると思うのですが。

本書の通奏低音は至極まっとうなので、タイトルや「はじめに」の煽り具合から行くと、煮え切らない感があるのも事実。確かに、本書のタイトルが「ネットマーケティング真価論」とか「ネットマーケティングにはだまされないぞ!?」とかでは、インパクトがヨワヨワだったと思います。だから本書のタイトルは「釣り」の意味もあるのでしょう。芸風としては許される範囲でしょうし、賢明な読者は読めば理解します。本書を読んで「そうか、ネットマーケティングやダメなんだぁ!やったぁ!4マス万歳!」とか言うのも、それはそれで「ただの流されやすい人」ですね。

こういう本を必要としているのが、企業ならどの立場にある人なのか、それが世の中に何人いるのかは疑問。意地悪な言い方をすると、煽られたり騙されたりしがちな人のための本なのかもしれません。そして広告周辺市場やSP、PRとの関係がお触りパブ程度なのもちょっと不満ですが、書かれていることはまっとうな現状認識な本だと思います。そういう意味では先述の『クチコミの技術』との親和性も高い。興味のある方は、書棚にセットで並べておくことをオススメしちゃうんだプニィ。

しかし過剰な期待はしないように。本書には目からウロコが落ちるようなことは書いていません。新鮮な話もありません。「現状認識本」だからです。イン・バウンズのプレイヤーが本書を読んで我に返るのはアリですが、目からウロコが落ちるようではヤバいと思います。

なお、2007年5月発行された『+DESIGNING』(毎日コミュニケーションズ)という雑誌のVol.5が「広告」というテーマでした。その中で私が、広告市場の広がりやタッチポイントの変化について日経広告研究所様に取材して「ひと見開き、2ページで、わかりやすく」(笑)ご紹介しているので、ちょっと古いですが機会があればぜひお手にとっていただきたく思います。その他にも、すぐれた広告のクリエイティブ紹介(紙がメインですが)や広告クライアントへのインタビューなどがギッシリ詰まった1冊。ヨドバシカメラの書籍雑誌売り場でデザイン誌のコーナーに行くと、バックナンバーがあったりしますよ。

関連記事: Macforest Weblog: 「クチコミの技術」読了.


クチコミの技術

「『そんなんじゃクチコミしないよ。ネットだけでブームは作れない 新ネットマーケティング読本』を読みました」への2件のフィードバック

  1. 著者の河野です。
    このたびはご紹介ありがとうございます。
    期待はずれであった点については申し訳なく思いますが、ご指摘の「煽られたり騙されたりしがちな人のための本」というのは、あながち間違ってないと思います。
    ぼくも『+DESIGNING』を見つけたら、記事を読ませていただきます。
    どうもありがとうございました。

  2. 河野さん、直々にありがとうございます。いろいろ書きましたが(読者はいつだってわがままです)、良書だと思っています。これを読んで我に返るべき人は少なくないはず。『+DESIGNING Vol.5』、毎コミさんで切らしてるみたいなんですが、機会があればぜひ……。

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