小田急が新4000形を発表して以来、あちらこちらのブログで「JRとの共通設計車なんて……」と嘆くエントリがアップされています。しかし、大手民鉄各社がJRの車輛をベースとした「共通設計車」を導入しているのは、時代の要請でもあるんです。
まず、最近の通勤電車はむかしのモノに比べて設計寿命が半分以下となっています。半分の寿命でコストが回収できるように、製造コストも半分、消費電力も半分にすることを目指しているわけです。「寿命が短くなる」というと「使い捨て」「資源のムダ使い」という印象も受けますが、そうではありません。その時代時代に合わせて「システム」の更新がしやすくなります。例えば15年後、電車の消費電力がさらに半分になったとしても、40年使わないともとが取れない車輛を使っていては、技術革新の恩恵を受けることができません。結果として電気をムダに使ってしまうのです。
そしてJRを含め「共通設計」にすることで、製造コストは大幅に落ちます。ヨーロッパの機関車や客車には共通設計車がたくさんあります。国も会社も違うけど、仕様は同じという車輛がたくさんあるわけです。もちろん、陸続きで車輛の乗り入れがあるからという理由もありますけどね、あちらには。
さらに。設計を共通にすると補修パーツやメンテナンスノウハウも共有できます。これから労働者が減るわけだから、そういう視点も必要です。
また、共通設計車の製造メーカーとして主要な役割を果たしている東急車輛製造では、ステンレスボディのリサイクルに関するノウハウも持っていると聞きます。リサイクルするには金もエネルギーも必要ですが、そこまでのコストを含めてもなお「省エネルギー、省コスト」が実現できるようになれば、共通設計車の思想や目標が完全に実現したと言えるでしょう(今はそこまでのデータは持ち合わせていません)。
私たちが普段乗っている電車は、趣味の対象である以前に暮らしの一部であり、システムの一部です。それがわかってない人が多過ぎます。
ついでにもうひとつ書いておきます。
愛知県や岐阜県に路線を持つ大手民鉄の名古屋鉄道は、近年ローカル路線をどんどん廃止しています。JR以外では日本最大の鉄道会社である近畿日本鉄道も、ローカル路線を廃止する移行を持っています。理由はもちろん「赤字だから」。ところが輸送人員のデータを見ると、地方を走るローカル私鉄からすればうらやむほどのお客さんがいるんです。なのになぜ、赤字を理由に廃止されるのか。
「赤字だから」の前に「大手民鉄の給与レベルでは、」という一文が付け加わるわけです。人件費を減らすと言い出すと、社員は怒るでしょう?だったら他で徹底的にコストダウンするしか無いし、それで無理なら廃止するとか、第3セクターに移行させるしか手段がないんです。そんなご時世に、各大手民鉄がたかが50〜300程度のロットの車輛を別個で発注するほうがおかしい。使える手段は使うのが当たり前でしょう。